大地のおくりもの
コマツナ
- 東京都 JA東京スマイル 江戸川地区青年部(東京都江戸川区)
- 2024年5月
冬はグッと甘く 春はやさしい味わい
コマツナ
生育期間が短く、通年裁培も可能。先祖代々、受け継がれてきた魅力ある土地には東京が誇る野菜が元気に育っていました。
スカイツリーがそびえる下町の住宅街。ウメのつぼみがほころぶ農家のビニールハウスをのぞくと、青々とした〝しゃもじ形〟の菜っ葉がいっせいに育っていた。江戸時代からこの地で栽培されるコマツナだ。
東京都江戸川区は、コマツナの発祥地。一説では江戸時代、八代将軍の徳川吉宗が、鷹狩りのために小松川村(現江戸川区)を訪れたさい、献上された餅のすまし汁に入っていた地元の菜っ葉を気に入り、「小松菜」と名づけたと伝わる。そんな由来が語り継がれるコマツナは現在、同区の野菜作付け面積一位を誇る。
JA東京スマイル江戸川地区青年部の部長として、若手生産者を率いる大貫信治さん(49)は、先祖伝来の三十アールの畑で、コマツナをはじめ年間四十品目の野菜を生産している。
「ここ江戸川区は昭和三十年代までは、いちめん田んぼや畑が広がっていました。うちも江戸時代からコマツナや水稲などを育てていたそう」
コマツナは生育期間が短く、暖かい時期なら播種からわずか二十五〜三十日で収穫。真冬のもっとも寒い時期でも、二か月あれば収穫期となる。そのため通年出荷が可能で、信治さんは四棟あるハウス内を十区画に分け、十日ごとにコマツナを播種している。出荷最盛期は年末。東京の正月の雑煮には、彩りの緑鮮やかなコマツナが欠かせない。
「十日おきに種をまいていくと、年間を通じてほぼ絶え間なくコマツナを生産できます。収穫が終わったら、すぐにその区画をならし、ふたたびコマツナの種をまきます」
ただし、コマツナは暑さにはそれほど強くない。近年の夏は四〇度近くになる猛暑日も多く、高温に耐えられないため、「おおぬき農園」では六〜七月はコマツナを播種せず、代わりにトマトなど夏の果菜類を育てている。
先祖代々の畑土で年一回の“少肥栽培”
信治さんが就農したのは、平成二十一年。それまではプログラマーとして多忙な日々を過ごしていたが、リーマンショックを契機に実家へ戻り、野菜栽培を開始した。子どもの頃からハウスや露地畑を遊び場としてきたが、仕事としての農業は初めてのこと。当時、父から栽培技術を一から学び、習得していった。
二十九年には、敷地内に直売所を開設。大貫家の屋号が「ノラ」だったため、直売所を「ノラ仕事」と名づけた。通年、その棚にはさまざまな旬の野菜が並ぶ。
「直売所でお客さんと対面して 『あの野菜、おいしかったよ』と言われると、やりがいを感じます。自分で値づけもできるので、もっといいものを作ろう、と思います」
信治さんのコマツナは「爽やかでおいしい」と直売所での評判も上々だ。その理由の一つが、基本的に年一回だけという〝少肥栽培〟だと、信治さんは説明する。
先祖代々、肥料を施してきた畑土はすでに養分があり余るほど蓄えられている。施肥を控えるとちょうどよいそう。堆肥と肥料を鋤き込むのは、冬の作付け前のみで、あとはいっさい施肥をしない。他には年一回、通気性をよくするために、籾殻とピートモスを鋤き込むくらいだ。
「子どもの頃に食べていたコマツナは、えぐみがあって苦手でした。一作ごとの施肥をやめたことで、味がよくなり、生育もよくなりました」
また、コマツナと同じハウス内で、ホウレンソウや江戸東京野菜の『金町コカブ』など、多品目の野菜を栽培しているのも特徴的。単一栽培に比べ、いろいろな作物を混植することで病害虫が減ることを実感したという。
「うちのコマツナは生でもおいしいんです。ぜひサラダで味わってください」
そう笑って自信を見せる信治さん。真冬は寒さに耐えてグッと甘くなり、春はやさしい味わいになるコマツナ。そのきれいで透明感ある逸品を求めて、季節ごとに多くの人が直売所を訪れる。
塩コマツナのそうめんチャンプルー
材料(1人分)
- そうめん 1束
- エノキタケ 50g
- 卵 1個
- アサリ(冷凍か水煮) 50g
- ショウガ(みじん切り) 小さじ2
- オリーブオイル 大さじ1
- 酒 大さじ2
- 白だし 小さじ2
- かつお節・ゴマ 適量
- 塩・コショウ 適量
- 塩コマツナ 70g
※コマツナを1cm幅に切って、塩(2%)と混ぜ合わせる。
❶ そうめんは半分の時間でゆで、ざるに上げてもみ洗いし、オリーブオイル(分量外)で和える。エノキタケはいしづきを取り半分に。
❷ フライパンにオリーブオイルを入れ、卵を溶いて流し入れる。半熟で器にあける。
❸ 同じフライパンに、ショウガ、酒を加え、アサリ、エノキタケを炒めて火を通す。
❹ ③に①のそうめん、水分を絞った塩コマツナに、白だしを加えてさっと炒める。②の卵を戻し、塩・コショウで味をととのえる。最後に、かつお節とゴマをちらして完成。
文=加藤恭子 写真=加藤熊三