大地のおくりもの

高知ナス

  • 高知県 JA高知県県域高知なす部会(高知県安田町)
  • 2024年6月

生産量日本一の産地で進化を続ける

高知なす

カツオや柑橘類の印象が強い高知県ですが、ナスの生産量も全国一。その秘密は、恵まれた自然環境と生産者のチャレンジ精神にありました。

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 高知県東部の太平洋沿いに広がるJA高知県安芸地区。安芸市や室戸市、東洋町、奈半利町、田野町、安田町、北川村、芸西村の八市町村から成るこのエリアが、全国一の生産量を誇る「高知なす」の主産地だ。
 高台から見渡すと、太平洋の沿岸部から丘陵地にかけて、膨大な数のハウスが点在しているのがわかる。
「栽培面積は、JA高知県安芸地区だけで約150ヘクタール。全部、ハウスです。生産量は年間約二万トンで、高知なすの約96パーセントが、この地区で作られています」
 安田町で四十年以上ナスを栽培し、JA高知県「県域高知なす部会」で部会長を務める清岡克弘さん(65)は胸を張る。
 産地の始まりは、昭和三十一年ごろ。安芸地区はもともと施設栽培が盛んで、それまではキュウリが主体だったそう。しかし連作障害が課題となり、新たに導入されたのがナスだった。

 その後、ナス栽培が安芸地区全体で急速に拡大していった背景には、地の利があったと、克弘さんは話す。
「ここは気象条件も日本一ではないでしょうか。まずこの太陽ですね。日照時間が長いだけでなく、光の質がいい。明るいんです。ナスは、ピーマンなどと比べても、より明るさを必要としますからね」
 高知なすは、いわゆる“冬春ナス”である。八月に苗を定植し、九月に出荷を開始。翌年の六月まで収穫が続く。途中で寒い冬を越さなければならないが、安芸地区は冬になると強い西風が吹いて雲が出にくくなり、冬場でも日射量が多いのだという。
 加えて、年間の降水量も多い。井戸水、ため池といった水源が豊富にあることも、大量の水を必要とするナス栽培には大きな強みとなった。

篤農家の技術をデータ化して活用

 一方、生産者たちも栽培技術を磨いてきた。
 克弘さんがとくにポイントにあげるのは、温度管理と水管理だ。生長サイクルやその日の天候に合わせて、ハウス内の温度も与える水の量も、時間帯ごとに細かく変えているという。
「すべては光合成を最大化させ、蓄えた栄養分を効率よく転流させるためです」
 しかも、篤農家と呼ばれる人たちが培ってきた技術を、五年ほど前からJAがデータ化し、だれでも活用できるよう指導している。
「温度設定から、防除のタイミングまで教えてもらえます。そのため新規に就農しやすくなり、生産者も栽培面積も増え続けているんです。新規就農者のみなさんも、いい成績をあげていますよ。ナスは、おもしろい! と言ってくれています」
 と、克弘さんはほほ笑む。
 新たな技術にも産地をあげて取り組み続けてきた。省力化のため、温度管理や灌水を自動でするハウスをいち早く導入。また最近では、県が開発した営農支援サービス「SAWACHI」を積極的に活用している。ハウス内の温度や湿度、地域の病害虫の発生情報などを、スマートフォンでリアルタイムに入手できるようになった。
 環境保全型農業への取り組みも早かった。天敵を利用する害虫駆除の方法を、約三十年前から導入。農薬使用の削減に成功している。
 また品種もつねに研究しており、昨年からはハチを使わなくても受粉する単為結果性品種『PCお竜』が主流になっているそうだ。

 他にも販売促進の面では、令和三年に大きなトピックがあった。高血圧を改善する成分「コリンエステル」が高知なすに豊富に含まれていることが実証され、生鮮ナスとして初めて、機能性表示が認められたのだ。
「パッケージを変えてから、健康意識の高い消費者が、手に取ってくれるようになりました」
 と、克弘さんもその効果を実感している。


 変化を恐れず、新たな技術や戦略を貪欲に取り入れ続けてきた高知なすの産地。だが、栽培にもっとも重要なことは今も変わらないと、克弘さんは言いきる。
「一番は、愛情ですよ。子どもといっしょ。毎日様子を見ながら、だいじに、だいじに育てていく。たくさんの手間と愛情を注いだ高知なすを、ぜひ食べてほしい」
 そう話す克弘さんのお勧めの食べ方は、なんと「たたき」だとか。
「高知市内ではカツオでしょうが、安芸で『たたき』と言えば、ナス(笑)。油で素揚げしたナスに、高知のミョウガとユズとポン酢をかけて食べたら最高ですよ」

文=茂島信一 写真=吉田真也

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