大地のおくりもの

石見銀山アスパラガス

  • 島根県 JAしまね 石見銀山 アスパラガス生産組合(島根県大田市)
  • 2024年7月

おいしさも世界遺産級!

石見銀山アスパラガス

産地が消滅しそうな状況から再生。太陽の光を浴び、熱い情熱を注がれて伸びるアスパラガスは、世界遺産と並ぶ名物になろうとしています。

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 世界遺産「石見銀山」の玄関口に位置する島根県大田市。ここで今、急速に存在感を高めている野菜が、アスパラガスだ。
 令和元年には三・七トンだった出荷量が、五年には約四十八トンに増加。品質への評価も〝うなぎのぼり〟だ。
「食べた方々から『大田のアスパラはおいしい』『甘くて、柔らかく、緑も濃い』と言っていただいています」
 JAしまね石見銀山地区本部・生産販売課の林隆幸さんは胸を張る。
 だが少し前まで、産地は存亡の危機を迎えていたそう。
「石見銀山アスパラガス生産組合」が発足したのは、平成十七年。十八人でスタートしたが、間もなく、茎枯病に悩まされるようになった。当時は、ほぼ全員が露地栽培。いくら防除をしても被害はなくならず、生産者は六人にまで激減した。

 そこへ新たな風を吹き込んだのが、二十七年に赴任してきた営農指導員だった。JAしまね石見銀山地区本部・生産販売課の市川雄規さんだ。
「正直、生産者のみなさんの意欲も低かったですし、このまま終わるかもしれないと思ったこともありました」
 と、当時を振り返る市川さん。だがその一方で、アスパラガスに大きな可能性も感じていた。
「大田市は、アスパラガスにとって、いちばん重要な立茎の時期である、四~五月の日照時間が全国でも上位なんです。しかも、単価が高かった。当時で一キロ千百円。そんな野菜、そうそうないんですよ。やり方しだいで、おもしろくなると思いました」
 市川さんには「営農指導員になったからには、いつの日か、一つの産地を自分の手で育ててみたい」という思いもあった。

高畝栽培に挑戦 リースハウスで拡大

「単価は高い。収量さえ増えていけば、生産者の意欲が出てくるはずだ」
 JAしまね石見銀山地区本部は、営農指導員に先進地を視察させ、学んだ内容を生産者に伝え続けた。
 そして、大きな転機が訪れる。香川県へ視察に行ったさい、畝を六十センチの高さにして収量増をめざす「高畝栽培」と出合ったのだ。
 平成三十年、JAでは高畝栽培の導入を生産者に呼びかけた。そのときのことを、当時、生産組合の組合長を務めていた岩﨑勝男さん(74)はこう振り返る。

「これなら体に負担が少なく、楽だなというのが第一印象。病虫害のリスクが減るのも魅力でした。なにより、JAの熱意と汗に、応えなきゃいけないと思いました」
 すぐに、生産者全員で香川県へ視察に飛んだ。だが、実際の導入には、一つのハードルがあったという。通常、間口六メートルのハウスには、三畝つくるのが当たり前。ところが高畝栽培は、二畝しかつくらない。
「二畝に減らして、ほんとうにだいじょうぶなの?」
 そんな生産者の不安を打ち消してくれたのが、新規就農したばかりの女性生産者だった。同年に第一号として高畝栽培を始めると、反収が三倍に増加。周囲は驚き、続々と後に続いていった。
 畝数を減らしても収量が増える秘密は〝空間のゆとり〟にあった。アスパラガスの収穫は、三~十月になる。春芽が終わり、夏芽に切り替わる頃から、ハウス内は高温になっていく。
 そのうえ、天井にまで伸びた親茎がうっそうと茂る。通気性も悪くなりがちだ。だが高畝栽培なら、通路幅も広いため通気性がいい。日光に当たりやすく、根域も確保できて根量が増え、収量だけでなく品質もよくなる。

 JAも、さまざまな支援に取り組んだ。現在の栽培面積約三百四十アールの多くが、JAがハウスを建て、生産者に貸す「リースハウス」によるものだ。
 さらに、アスパラガス専用の選果場の新設、イメージキャラクターの公募、PRイベントの開催など、産地の育成に力を注いできた。
「でも、ここまで成長してこられたのは、生産者のみなさんが新しい技術を取り入れてくれたから。ほんとうに勇気がいったと思います」
 市川さんは話します。
「いやいや、JAの営農指導員に尻をたたいてもらったおかげ(笑)。アスパラガス栽培のおもしろさを、教えてもらった」
 と、感謝する岩﨑さん。
 でも、まだ道の途中。これからも「アスパラガスを、石見銀山に並ぶ、大田市の名物に!」という夢を、生産者とJAが二人三脚で追いかけていく。

文=茂島信一 写真=吉田真也 写真提供=JAしまね

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