つなぐ人びと

五十年続くふれあい市を昔なじみと守り立てる

  • 岩手県 盛岡市(JA新いわて管内)
  • 2024年7月

荒屋まゆみさん

五十年続くふれあい市を
昔なじみと守り立てる

農協婦人部の先輩たちから受け継いできた地域の宝“ふれあい市”。
昔からの仲間と共に知恵を出し合い次世代につなげる女性がいます。

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 岩手県盛岡市(旧・玉山村)で開かれている「ふれあい野菜市場」(たまやまふれあい市)は、五十年にわたって地域の人々に親しまれてきました。
 四~十二月の毎週金曜日、JA新いわて旧・好摩支所にて開催。女性部の部員が、野菜や加工品などを持ち寄ります。そのほか生産者、加工の工房を持つ人も、ふれあい市の会員です。
 四月上旬、今年の初市となったこの日、にぎわう売り場を見ながら、会長の荒屋まゆみさん(61)は、ほっとした表情を浮かべていました。
「初市の日は、いつもそわそわするんです。冬のあいだはお休みしていたふれあい市に、今年もお客さんが来てくれるんだろうか。そう思うと、いつも心配になってしまって。だから、今日も朝からお客さんが並んでいるのを見たときは『今年も無事に始まるんだ』と安心しました」

 ふれあい市が始まったのは、昭和四十七年。最初は農協婦人部の有志が、農協出荷のさいに余った野菜などを並べたことがきっかけだったそう。
 当時は好摩駅(現IGRいわて銀河鉄道)向かいの農協施設で開催されており、最盛期には会員も四十人ほどいました。安価で質のよい野菜が買えるとの評判が広がり、軽トラに満載した野菜の小売りだけでなく、業者がまとめ買いするほどの盛況ぶりだったといいます。
 平成二十七年に現在の場所へ移り、規模こそ小さくなりましたが、今もふれあい市は当時の様子がうかがえるにぎわいを見せます。
 初市であるこの日も開店前から百人近い客が列をつくり、最初の三十分ほどで並べられた野菜などが、みるみる店頭から消えていきました。


 三十年ほど前から野菜を出している会員の一人は、うれしそうにこう話します。
「ここは会員の一人一人がたがいに尊重し合い、自分の作ったものを直接、お客さんに手渡せるたいせつな場所。農家のお母さんが小遣いを稼げるし、いっぱい売れると、元気をもらえるんですよ」
 まゆみさんがふれあい市の会員になったのは、今から二十五年ほど前のことでした。まゆみさんの家はピーマンやネギ、花卉を生産する農家で、十年前から市の会長を任されるようになりました。
「金曜日に並べる野菜をそろえるために、ある程度の数を用意するのはたいへん。でも、女性部の先輩がたはみんな威勢がよくて、引っぱられるように続けてきました(笑)」

歴史の重みと誇りを感じながら野菜を届ける

 今は地域の高齢化も進み、会員は十五人。それでもふれあい市が、常連客や会員同士の交流の場にもなっていることに変わりはありません。
「会員はみな農家ですから、たがいに畑の様子を伝え合ったり、最近の人気野菜の情報を交換したり。なにより、地域のお客さんと会って『今週も元気だった?』『また来週ね』と、やりとりするのはたいせつな時間です」
 会員たちと話し合い、企画を考えるのも楽しみの一つです。今回の初市では、客に紅白餅を配りました。新型コロナの流行時にはティッシュを配布。昨年の五十周年記念には、野菜の福袋を用意する工夫もしてきました。

 まゆみさんは、この市が五十年にわたって続いてきた理由について、立ち上げたのが農協婦人部であることも大きな要因だったと話します。
「ふれあい市の強みは、地域に密着していること。生産者が対面で販売しているところにあると思っています。当時の農協婦人部がつくった市なので、地域に根づくうえでの安心感があったのも大きい。高齢化は確かに進んでいますが、しっかりとつないでいきたい場所です」
 ふれあい市では、地域の学校の給食センターや保育園への食材提供もしています。
「ふれあい市の存在がさらに地域に浸透し、一人でも農業に興味を持つ人が現れてくれたら、うれしいですね」
 その日、初市のセレモニーで、まゆみさんは開店前から並ぶ客を前にこう言いました。
「五十年という歴史の重みと誇りを感じながら、今年もみなさんに安全・安心、新鮮でおいしい野菜を届けていきたいと思います」
 週に一度の積み重ねのなかで、そんな思いを次世代にも受け継いでいきたい――。会長を務めるまゆみさんの意気込みです。

文=稲泉 連 写真=鈴木加寿彦

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