大地のおくりもの
夢咲トマト
- 静岡県 JA遠州夢咲 夢咲トマト委員会(静岡県菊川市)
- 2024年8月
果実の均一な美しさが秀逸です
夢咲トマト
日照時間に恵まれ、栽培に適した土地。そこでストレスなく、元気に育つ高品質なトマトです。手塩にかける生産者とJAを訪ねました。
春のやわらかい日ざしがあふれる温室。通路の両側ではエメラルド色の茎葉がいっせいに誘引ひもを上り、大玉の果実がたわわに実っていた。花から花へと飛び回るのは、受粉用に放している在来種のクロマルハナバチだ。
全国有数の日照時間を誇る静岡県西部は、光をたっぷり欲しがるトマトの栽培に適した土地。なかでもJA遠州夢咲管内の菊川市、掛川市、御前崎市で栽培される「夢咲トマト」は、高品質なトマトとして知られる。
JA遠州夢咲「夢咲トマト委員会」の生産者は、四十一人。委員長の谷川学さん(56)は、工業系企業のエンジニアとして働いていたが、四十代で新規就農した。
「夢咲トマトのベテラン生産者のハウスを見せていただいたとき、楽しそうで興味を持ちました。週末ごとに通い、会社を辞めてから一年間、本格的に修業。JAが探してくれた中古のハウスを使って就農しました」
夢咲トマト生産者の七~八割が養液栽培。水や温度、湿度などをコンピューターで自動管理している。エンジニアだった谷川さんの知識を生かせる分野だ。ベテラン農家のような経験と勘が不足するぶん、先端技術が頼りになるという。
谷川さんは、トマト栽培においてのポイントを話してくれた。
「トマトが“気持ちいい”と感じる環境を心がけています。適度な水と養分を与えて元気に育ったトマトは、うまみと糖度のバランスがよくなります。すべてにおいて平均点をめざすことで品質が安定し、収量も増えます」
集例会で顔合わせ 色づきをそろえる
苗の植えつけは八月。九月下旬から収穫が始まり、翌年七月上旬まで続く。収穫後は摘葉し、誘引ひもを伸ばすことで、茎がとぐろを巻くように下方に集まっていく。最終的には三十段まで着果し、一株当たり九十個ほどの大玉トマトが収穫できる。
夢咲トマト委員会では、収穫が始まると二週間に一度、JA遠州夢咲青果物流通センターで「集例会」を開いている。出荷時の果実の着色ぐあいをそろえるためだ。店頭での色づきの時間を考慮して、寒い時季は赤くなってから、暖かい時季は緑色が残っているうちに収穫する。
これほど生産者同士が頻繁に顔を合わせ、綿密に一個一個の色や形をそろえている姿には頭が下がる、とJA遠州夢咲・営農指導課の鴨川悠太さんは話す。
「夢咲トマトの選別基準は、たいへんに厳しいんです。そのため、出荷箱に並んだ果実の均一な美しさはみごとです。これまで生産者のみなさんが積み上げてきた高い品質と評価を守り、次の時代へつなげていきます」
文=加藤恭子 写真=加藤熊三