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つきいれだんご
- 宮崎県 JAみやざき 日向地区本部女性部(宮崎県日向市)
- 2024年8月
ふるさとに息づく 伝説の味を次代へ
つきいれだんご
宮崎県の小さな港町に伝わる郷土菓子「つきいれだんご」。
その素朴な味には、歴史のロマンと故郷への愛があふれています。
神話が数多く伝わる宮崎県。その海岸部にある日向市美々津地区では、「つきいれだんご」という菓子が古くから作り継がれてきました。こんな伝説とともに――。
初代天皇といわれる神武天皇は、美々津の港から、日本を治める旅(神武東征)に出発することになりました。お船出の日は、旧暦の八月一日に決定。美々津の人々は、祝いのだんごをさしあげる準備をしていました。
「ところが台風で、急にお船出が早まったんですよ。間に合わせるために急いで材料を入れて、ついたから、『つきいれだんご』なんです」
と、地元に伝わる逸話を教えてくれたのは、JAみやざき日向地区本部女性部「美々津料理グループ」のみなさん。
「わたしたちは、『つきいれ』と呼んでいます。作るのは、お盆の時期よね」
「そうそう。仏様にお供えしたり、お客さんにあげたり。自分たちも食べるので、たくさん作るんですよ」
お船出伝説はたいせつな文化
お船出に間に合うよう、急いで仕上げただんごだけに、作り方はとてもシンプル。もち米を蒸し、半分ほどついたところで、ゆでたアズキを入れて、いっしょにつきあげます。白い餅全体が、アズキ色に染まったらできあがり。黒砂糖をかけて食べます。
「きな粉でもいいけど、黒砂糖がいちばん合うわね。仏様にお供えするときも、黒砂糖を添えるんですよ」
そう言ってほほ笑むのは、黒木眞壽美さん(75)。
また、美々津で生まれ育った黒木美智子さん(65)は、懐かしそうに話します。
「昔から『お船出だんご』という名で売られていました。小さい頃、習字教室の帰りに買って食べるのが楽しみで。三個で三十円でした(笑)」
さらに話は盛り上がります。
「神武様がお船出されたのは、寒い朝だったそうよ」
「急に出発が早まったので、扉をたたいてみんなを起こして回ったのよね」
「だから今でも『起きよ祭り』というのがあって、歌もあるんですよ。起きよ~起きよ~ みな起きよ~♪」
みなさんの言葉から「お船出伝説」への深い愛情があふれています。でも最近は、つきいれだんごを作る家庭も少なくなってきたのだとか。グループリーダーの海野千浪さん(66)は語ってくれました。
「つきいれも、お船出伝説も、美々津のたいせつな文化。次の世代につないでいきたいと思います」
「つきいれだんご」の作り方
材料(20皿分)
- もち米 1升
- アズキ 8合
- 黒砂糖(粉) 適量
❶ もち米を洗って、一晩水につけておく。ざるに上げ、水を切る。蒸して、五分づきの状態までつく。
❷ アズキはやわらかく煮ておく。①にアズキを入れ、いっしょにつく。
❸ 途中、しゃもじでかき混ぜ、餅全体がアズキ色になったらできあがり。
❹ 箸を使って、巻き取るように皿に盛る。そこへ黒砂糖や、きな粉をかけて食べる。
もち米と
アズキだけの
素朴な味よ
美々津のお盆に
欠かせない
お菓子です
文=茂島信一 写真=下曽山弓子